「A5ランクの牛肉を使用!」といった宣伝文句を目にしたことがある人は多いでしょう。
多くの人は「A5ランク」を牛肉の美味しさのランクだと思っているのではないでしょうか。
実は、このA4・A5といったランクは美味しさを表すランクではないのです。
このランクの表記は、
- 歩留等級
- 肉質等級
この2つの評価を総合して表したもので、全部で15段階の格付けとなっています。
今回は、これらがどのように評価されるのか、高ランクの牛肉は確実に美味しいのかについて説明します。
この記事は、和牛×ギフトの専門店「肉贈」の店長松本が監修しています。
肉検定1級・2級、家畜商の免許も取得済。和牛の肥育もしています。
「和牛×ギフト」を通して、贈り主&贈り先の双方を幸せにすることを目標に日々活動中。
牛肉は「A5」がいちばんおいしいの?
牛肉のランクは「A5」「B4」というように、「A〜C」のアルファベットと、「1〜5」の数字で表されます。これは、日本食肉格付協会が「牛枝肉取引規格」に基づいて決定するものです。
実は、アルファベットと数字はそれぞれ異なる格付で、それぞれ以下の格付を表しています。
- アルファベット=歩留等級
- 数字=肉質等級
よく「A5ランクの牛肉」と宣伝している焼肉店などを見かけますが、「A5」ならどの牛肉でも美味しいというわけではありません。
では、それぞれの格付けについて詳しくみてみましょう。
牛肉のランク(格付)要素①歩留等級
まずアルファベットで表される「歩留等級(ぶどまりとうきゅう)」から説明していきます。
歩留等級=「枝肉から得られる部分肉の割合」
枝肉(えだにく)とは、牛の皮・頭・足・内臓を取り除いた状態で、歩留等級は第6〜7肋骨間のロースやバラの断面積などから算出され、商品となる部分肉が取れる量を表しています。
部分肉とは? 部分肉とは、枝肉を各部位に分割して骨と余分な脂肪をを取り除いて整形したもので、カット肉とも呼ばれます。部分肉として定義されるのは以下の13箇所の部位です。 |
牛からどれだけ部分肉が取れるかは供給量に直結するため、歩留等級は大切な牛の資質であると言えます。
歩留まり等級の基準値
歩留まり等級の基準値は以下の通りです。
等級 | 歩留基準値 | 評価 |
A | 72以上 | 部分肉歩留が標準より良い |
B | 69~72未満 | 部分肉歩留が標準程度 |
C | 69未満 | 部分肉歩留が標準より劣る |
歩留基準値の数字は部分肉の割合を表すものではなく、以下の計算式によって算出されます。
歩留基準値=67.37+【0.130×胸最長筋面積(cm²)】 +【0.667×「ばら」の厚さ(cm)】 −【0.025×冷屠体重量(半丸枝肉kg)】 −【0.896×皮下脂肪の厚さ(cm)】 |
このように、非常に長い計算式が使用されています。
歩留基準値の加算対象となる肉用種は、黒毛和種・褐毛和種・日本短角種・無角和種の4品種と、この4品種間の交雑牛のみなので、歩留等級でランク付けされている牛肉はすべて和牛です。
牛肉のランク(格付)要素②肉質等級
次に、数字で表されている「肉質等級」について説明します。
肉質等級=「牛肉の質」
肉質等級はその名の通り牛肉の質を表しています。
評価対象は以下の4項目です。
- 脂肪交雑
- 脂肪の色沢と質
- 牛肉の締まりときめ
- 牛肉の色沢
それぞれの項目を5段階評価して肉質等級を決めるのですが、4項目の平均値ではなく、もっとも低い評価のものがその牛肉の肉質等級となります。
つまり、3項目が「5」であっても、何か1つが「3」であれば肉質等級は「3」になるのです。
では、それぞれの項目について説明します。
脂肪交雑
脂肪交雑は、サシや霜降りなどの脂肪の入り方の評価です。
次のようにB.M.S.No.1~12に分けられます。
B.M.S.とは「ビーフ・マーブリング・スタンダード」の略です。
12段階のB.M.S.がそのまま評価値になるのではなく、以下のように5段階に振り分けられます。
- 等級区分1…B.M.S.No.1
- 等級区分2…B.M.S.No.2
- 等級区分3…B.M.S.No.3~4
- 等級区分4…B.M.S.No.5~7
- 等級区分5…B.M.S.No.8~12
褐色和牛や日本短角種などは元から脂肪が少ない品種であるため、脂肪交雑の等級が低くなるため、肉質等級も低くなる傾向があります。
脂肪の色沢と質
脂肪の色沢と質はB.F.Sという基準で評価されます。
B.F.S.とは「ビーフ・ファット・スタンダード」の略です。
脂肪の色沢と質が上記の表のどれに該当するかによって評価されます。
それぞれの等級区分は以下の通り。
- 等級区分2…B.F.S.No.1~7
- 等級区分3…B.F.S.No.1~6
- 等級区分4…B.F.S.No.1~5
- 等級区分5…B.F.S.No.1~4
1等級と評価されるのはNo.7よりも劣る脂肪のものです。
脂肪の色沢や質は以下のように確認します。
|
牛肉の締まりときめ
締まりときめは、ロースの断面を目視して以下のように格付けをします。
等級 | 締まり | きめ |
5 | かなり良いもの | かなり細かいもの |
4 | やや良いもの | やや細かいもの |
3 | 標準のもの | 標準のもの |
2 | 標準に準ずるもの | 標準に準ずるもの |
1 | 劣るもの | 粗いもの |
牛肉の色沢
牛肉の色沢はB.C.Sという基準で評価されます。
B.C.Sとは、「ビーフ・カラー・スタンダード」の略です。
牛肉の色沢が上記の表のどれに該当するかによって評価されます。
それぞれの等級区分は以下の通り。
- 等級区分2…B.C.S.No.1~7
- 等級区分3…B.C.S.No.1~6
- 等級区分4…B.C.S.No.2~6
- 等級区分5…B.C.S.No.3~5
色味が濃すぎても薄すぎても高評価にならず、中間の3〜5が5等級となります。
1〜7どれにも当てはまらない牛肉は1等級です。
色沢の確認は牛肉全体を目視して決定されます。
牛肉のランク付けは見た目がほとんど
ここまで見ていただいた通り、牛肉の格付けは見た目による判断がほとんど。もちろん、見た目でも質の良さはある程度判断できるでしょう。
しかし、牛肉の格付けは「味」の基準ではないのです。
もし、本当に美味しいと思える牛肉を食べたいのであれば、高ランクなだけでなくブランド和牛にこだわりましょう。
次に、なぜブランド和牛なら美味しいのかについて説明していきます。
ランクの高い牛肉を食べるならブランド和牛にこだわろう
ここまで、牛肉の格付方法と、ランクは見た目の基準であることをお伝えしてきましたが、最後にブランド和牛の場合はA4やA5といった高ランクの牛肉が非常に美味しくなることについて説明します。
ブランド和牛のはそれぞれ定義がある
ほとんどのブランド牛には、そのブランド牛と認められるための定義があります。
まず、日本三大和牛と呼ばれる有名ブランド牛の定義を見てみましょう。
【松阪牛の定義】
【神戸牛(神戸ビーフ)の定義】
【米沢牛の定義】
このように、厳しく細かな条件を満たさなければ、ブランド牛として認められることはありません。
餌にこだわられ、一般的な肉用牛よりも時間をかけて育てられるため、味に深みがあります。
また、「未経産の雌牛」という定義があるブランド牛が多いのですが、これは雌牛は雄牛よりも脂肪の質が良く、不飽和脂肪酸が多く含まれていることで深い味わいになり、さらに未経産の牛は経産牛よりも脂肪の量が多いためです。
脂肪融点の低さによるくちどけ
ブランド牛は脂が溶けだす温度、つまり「脂肪融点」が低いこともわかっています。
例えば、以下は松阪牛の脂肪融点を他の肉用牛と比べたものです。
このように、和牛と比べても圧倒的に脂肪融点が低いのが特徴です。
さらに、神戸牛の脂肪融点は14℃とも言われており、体温でたやすく溶けだすことがわかります。
そのため、ブランド牛の見事な霜降りは口でサッと溶けだし、噛み切る必要もないような食感と溶け感、脂の甘みを感じられるのです。
脂肪融点が低い理由は、手間暇かけて育てられたブランド和牛が多く含むオレイン酸にあります。
オレイン酸自体の融点が低いため、そのオレイン酸を多く含むブランド牛は脂肪融点も低くなるのです。
さらに、オレイン酸はうまみ成分でもあるため、多く含むことで脂の香りも甘みも格段に良くなることがわかっています。
まとめ
今回は、牛肉のランクがどのように評価されるのか、高ランクの牛肉は確実に美味しいのかについて説明しました。
牛肉のランクはアルファベットが「歩留等級」を、数字が「肉質等級」を表しています。
歩留等級はA~Cで表され、肉質等級が1~5で表されるため、15段階の格付けとなります。
歩留等級は商品となる部分肉が取れる量を表しており、肉質等級は4つの項目で肉や脂肪の質を判断しますが、これらはほとんどが目視による評価です。
そのため、高ランクであるほど味が美味しいとは言いきれないのです。
しかし、ブランド和牛の場合はブランド牛ごとの定義が厳しく決められており、質のいい脂はオレイン酸を多く含み口どけや風味が優れているため、A5やA4といった霜降りのお肉であればより一層美味しく食べることができます。
牛肉のランクも脂ののりなど美味しさを判断するひとつの基準になるかもしれませんが、ブランド和牛を選ぶのが確実に美味しい牛肉を食べる方法と言えるでしょう。